昭和60年(1985年)8月12日に、日本の航空機事故史上、最悪の被害者数を出した「日本航空123便墜落事故」が起きてから、今年で33年目です。あの夜の光景は子供心にも異様なもので、テレビを見ながら怯えたことを今でも覚えています。そしてこんな日だからこそ、日本の飛行機の保守、点検、安全について考えました。
日本の飛行機の保守・点検・安全
飛行機関連記事と言えば、当サイトでは、少し前に大韓航空機のパイロットのレベルや機内清掃などについて調べ、その実態を調べました。
大韓航空に乗ってはいけない5つの理由|不衛生な機内、低レベルなパイロット
では日本の航空会社の安全性はどうかと言えば、韓国を笑えません。日本の航空機の整備は、もはや日本国内だけで行われていないからです。
航空機トラブルの影に外国への整備発注
2001年同時多発テロ以降、飛行機の利用客の激減や原油高によって、日本の航空会社は経費節減を押し進め、整備を中国やシンガーポールの整備会社に外注しており、今でも続いています。
しかしレベルの低い航空機整備力のせいか、トラブルが頻発していました。ソースはこちら。
JAL機体の3割は「中国の工場」で整備されていた
日本の航空各社は1990年代半ばから、機体に必要な整備や修理を国交省が認定するアジアの工場に委託していた。
とりわけ日本や米国の航空会社からの需要を取り込んで急速に規模を拡大してきたのが、中国福建省に本社を置く「TAECO社」とシンガポールの「SASCO社」という2社の整備専門会社(MRO企業)だ。そういった中国やシンガポールのMRO企業には、どのような整備が委託されているのか。
中略
航空各社がMRO企業への委託を推進した2000年代前半、JALでは経営合理化に反対する労働組合が、海外委託整備への不安と懸念を表明。当時、JALでは海外で整備された機体に不具合が頻発していた。その一例が、「日本航空乗員組合」の『乗員速報』(2006年10月8日号)に掲載された「燃料タンク内部でマニュアル発見」という一件だ。
TAECO社で重整備を受けた貨物機の燃料計が誤作動し、再点検すると燃料タンク内部に「整備マニュアルの紙片が散乱」していた。中国での重整備時に、TAECO社の整備士がマニュアルをうっかり置き忘れていたのである。組合側はその後もTAECO社が整備した機体にトラブルが続いたことを問題視。『乗員速報』では、2007年だけで実に10件ものTAECO社絡みの不具合が発生したことが大きく取り上げられた。
後略
週刊ポスト:2017年9月29日号
JAL機体の3割は「中国の工場」で整備されていたひとたび事故を起こせば、多数の乗客の命が危険に晒される。それだけに飛行機には日々、入念な点検・整備が行なわれており、とりわけ日本のエアラインは高い安全性で世界的に評価されてきた…
私も時々飛行機を利用しますから、こういう整備ミスを聞くとちょっと怖い。
整備技術の未熟な国への外注のリスク
コスト削減や人員不足のために、航空会社も苦労しています。しかしその注文先についてはそのリスクを認識する必要があります。
中国のTAECO社の整備ミス
JALが外注した中国のTAECO社の整備ミスは、燃料タンク内に紙のマニュアルの置き忘れや、整備工場で、人為的な疑いのある電気配線切断があったり、整備で取り外した地上接近警報コンピューターの紛失です。ソースはこちら。
前略
JALでは海外で整備された機体に不具合が頻発していた。その一例が、「日本航空乗員組合」の『乗員速報』(2006年10月8日号)に掲載された「燃料タンク内部でマニュアル発見」という一件だ。
TAECO社で重整備を受けた貨物機の燃料計が誤作動し、再点検すると燃料タンク内部に「整備マニュアルの紙片が散乱」していた。中国での重整備時に、TAECO社の整備士がマニュアルをうっかり置き忘れていたのである。組合側はその後もTAECO社が整備した機体にトラブルが続いたことを問題視。『乗員速報』では、2007年だけで実に10件ものTAECO社絡みの不具合が発生したことが大きく取り上げられた。
◆“重大事故”は起こしていない
2007年にはエンジンに燃料を送る管の取り付けミスによる燃料漏れも続発した。フライト後の発見もあれば、出発前点検で燃料漏れが見つかって機材を交換する騒ぎになることもあった。燃料漏れは引火すれば火災に発展する重大なリスクだ。
他にも非常口のサインの配線が切れていたり、欠陥のある燃料ポンプ部品が取り付けられるなどのトラブルが起きていた。
後略
週刊ポスト:2017年9月29日号
JAL機体の3割は「中国の工場」で整備されていたひとたび事故を起こせば、多数の乗客の命が危険に晒される。それだけに飛行機には日々、入念な点検・整備が行なわれており、とりわけ日本のエアラインは高い安全性で世界的に評価されてきた…
中国の整備工場でジャンボ機の配線、わざと切断
全日本空輸や日本航空が機体の整備を委託している中国の工場で、人為的とみられる電気配線の切断や警報装置の紛失が発覚し、国土交通省が同工場に対し、臨時の安全性確認検査を行っていたことが12日、わかった。同省は、全日空と日航に対し、同工場で整備を行った機体の安全を再確認するとともに、今後、受け取り時の検査を徹底するよう指示した。
トラブルがあったのは、中国・アモイ市のTAECO社。整備改造の事業場として、国交省をはじめ米国などの航空当局の認定を受けており、日本では全日空と日航が年間計10機前後の整備を委託している。
国交省などによると、10月中旬、全日空が整備を委託したボーイング747型(ジャンボ)機で、発電機制御系統の電気配線が切断されているのが、エンジン試運転のチェックで発覚した。その後の検査で、客室のトイレから客室乗務員に連絡するための電気配線でも切断が見つかった。また、整備のため取りはずした地上接近警報装置のコンピューターが紛失していたこともわかった。
故意の切断や盗難の疑いもあるとして、中国警察当局が捜査しているほか、TAECO社では、ガードマンの配備や監視カメラの設置など警備が強化された。
同社から報告を受けた国土交通省は10月下旬、再発防止策や警備強化状況の確認のため、同工場に検査官を派遣し、臨時の安全性確認検査を行った。また、同工場に機体の整備を委託している全日空と日航に対しては、すでに完了検査を終えている機体について再度、詳細に点検するよう指示。これらの機体では、異状は見つからなかったという。
海外での整備委託は、コスト削減や機体の稼働率アップのため、世界の航空会社で定着しており、日本の大手航空会社も、TAECO社のほか、シンガポールやタイで機体の整備を外注している。このうち、TAECO社などの工場では98年から99年にかけて整備ミスが相次ぎ、旧運輸省が原因調査や再発防止の徹底を指示している。
後略
ウェブアーカイブより
朝日新聞:2005年
asahi.com : 社会 : 速報
整備を外注するのが世界の流れで、中国のTAECO社の航空機整備は、日本だけでなく、アメリカやフランスなど他国も利用しています。しかし様々なトラブルを聞く限り、中国の整備技術レベルはまだ信用に足りません。
中国では自国の工事ですら「おから工事」などの手抜きがあるくらいなので、基本的に仕事の丁寧さに欠けています。にも関わらず、その中国に航空機の整備を任せざるを得ない状況は残念です。
シンガポールのSASCO社の整備ミス
中国の整備会社だけにリスクがあるわけではありません。シンガポールの整備会社が整備した全日空の機体は、非常用酸素マスクが落下できないまま2600回も飛んでいました。ちなみにJALの機体ではエンジンを左右逆に付けてしまうという冗談みたいなミスもありました。ソースはこちら。
2009年にANAで起きたトラブルは、国土交通省から異例の厳重注意が下った。同社保有の3機で、非常用酸素マスクの一部が落下しない状態のまま、2600回も飛行していたことが発覚したのである。
整備を担当したのはシンガポールのSASCO社。頭上のスペースにマスクを収納する際、チューブが絡まってしまっていたのだ。なおSASCO社は、2005年にJALのジャンボ機を整備した際、左右のエンジンを逆に装着するという信じ難いミスも犯している。
週刊ポスト:2017年9月29日号
JAL機体の3割は「中国の工場」で整備されていたひとたび事故を起こせば、多数の乗客の命が危険に晒される。それだけに飛行機には日々、入念な点検・整備が行なわれており、とりわけ日本のエアラインは高い安全性で世界的に評価されてきた…
酸素マスクのチューブを絡まったまま収納していたことやエンジンを左右逆に付けてしまうのは、最早論外です。工具が1つ紛失しただけでも、見つかるまで総出で探す日本の神経質さを持って欲しいですが、お国柄や国民性もあって、難しいかもしれません。
とは言え、日本国内の航空整備士不足やコストを考えると、中国やシンガポールの航空機整備会社への外注を今後、完全に無くすことは厳しいでしょう。なのでJALとANAには、最終チェックを厳格に行ってもらうしかありません。
外注整備から国内整備へ変化
コストを下げても、一度の大事故が起こればそのコストカットは全く無意味になります。それに大事故を起こせば、会社の経営自体が危ういものにもなりかねません。
未熟な整備による事故リスクを重く考えるようになった日本航空や全日空は、現在では、外注を減らし、日本国内での整備を増やす環境を整え始めました。
すべての航空機整備を国内で行うには、人員不足解消やコスト問題があるため時間が掛かるでしょうが、嬉しい変化です。
日本の航空機の整備状況
では実際のところ、日本ではどのように飛行機が整備されているのか。日本の代表とも言える、日本航空と全日空の航空機整備の流れとそれぞれの忘れてはならない事故を振り返ります。
日本航空の整備
日本航空が公開している「航空豆知識」に航空機の整備について触れたものがありました。それによると、日本航空の飛行機は一定の飛行回数や飛行時間ごとに、4段階の整備が行われています。
4つの段階は「T整備」「A整備」「C整備」「M整備」がありました。
- T整備(飛行機が到着するたびに行われる簡単な整備。チャーターサービスとも。)
- A整備(300時間毎の整備で、約10人の整備士が外部の点検や油脂類の交換、各部の清掃、部品の交換等)
- C整備(約1年毎、7日から10日を掛けて、機体構造の点検を含む整備をする)
- M整備(4、5年に1度行う20日から2ヶ月掛けて行う大規模な整備。内装だけでなく、外装のペンキも剥がして防錆、再塗装をし、更に機体の詳しい構造、電気系統など整備や改修をする)
飛行機の故障は墜落になる可能性があり、故障していないことが大前提です。4つの段階で常に整備している日本航空の飛行機は、高い安全性を保っていると考えていいでしょう。
詳しくは日本航空の「航空機豆知識」へどうぞ。
世界最大の被害者数の日本航空123便墜落事故
飛行機の安全性を考える時、必ず思い出すべき事故。それが、航空機の単独事故で世界最大の被害者数を出した1985年8月12日の日本航空123便墜落事故(乗員乗客524名、死者数520名、生存者4名)です。
ちなみにこの御巣鷹山に墜落した日本航空123便の事故原因は、根拠の無い憶測から目撃証言に基づいた様々な推測があるものの、一般的にボーイング社の手抜き修理のせいだとされています。しかし腹立たしい事に、この事故の責任をボーイング社は一切取っていません。
原因について判りやすい説明をしておきます。御巣鷹山で墜落したボーイング社製のジャンボジェットJAL123便は、1978年にしりもち事故を起こしており、その際の修理が適切に行われておらず、日本航空の整備では確認できない場所(点検できない場所)だったために、1985年のあの日、耐えられなくなった圧力隔壁が破損して墜落したということです。更に詳しくはwikiを参考にどうぞ。
この事故を教訓に、その後の飛行機整備の際には、修理した部分があればそこも点検し、継続して監視するようになっており、二度と悲劇が起きないように日々努力されています。
主観的な意見ですが、この悲劇が起こった日本航空だからこそ、整備には細心の注意を払っていると信じたい。
全日空の整備
日本の航空会社を語るならもう1つ触れるべき会社が全日空(ANA)です。全日空は全日空の飛行機の整備を専門に行っている「全日空ベースメンテナンステクニクス株式会社」など9つの会社、そして全日空とその関連会社15社で「With “e.TEAM ANA”」を組んで、飛行機の保守を行っていました。その整備は大きく分けて3つの種類があります。
3つの整備は「C整備」「重整備(HMV)」「A整備(夜間定例)」です。
- C整備:1、2年毎に60人で約10日掛けて行う整備。機体構造、諸系統および装備品の点検と不具合の修復
- 重整備:4、5年事に60人で約1ヵ月掛けて行う整備。C整備に加えて、機体構造の点検・防蝕作業等をする。
- A整備:1ヵ月半から3ヵ月毎に、最終便で到着した飛行機を、数人から10人で5時間を掛けて翌朝までに点検・整備する。
全日空の飛行機メンテナンスのPDFファイルを参考にしました。詳しい事はPDFをご覧下さい。
世界一の安全品質を守る ANA整備本部
https://www.ana.co.jp/ir/kabu_info/ana_vision/pdf/57/07.pdf
全日空も安全のために日々頑張ってくれていますね。これからも続けて欲しい。
全日空の最大の航空事故「全日空機雫石衝突事故」
私の記憶では全日空の飛行機で大きな事故は思い出せなかったので調べてみました。すると全日空も大きな事故を起こしていました。それは、1971年7月30日に岩手県の雫石町(しずくいしちょう)で起こった「全日空機雫石衝突事故」です。
この事故は全日空機と訓練中の自衛隊機が空中で衝突し、双方墜落した事故で、乗員乗客合わせ162名が全員死亡しています(自衛隊員は脱出し生存)
その原因は、自衛隊訓練機が全日空の飛行ルートを把握しておらずにそのルートに侵入したことが最大の原因とされましたが、自衛隊機を目視していたにも関わらず回避行動を取らなかったことも原因の1つとされています。
ただしこの事故の背景には、航空行政がまだ整っておらず、自衛隊機の訓練ルートと民間機の飛行ルートが分離されていなかった事や事故調査委員会すら存在していないという状況があります。
その後、自衛隊機と民間機の飛行ルートは分離され、空の安全を担保するための法を定めた「改正航空法」が可決、施行されており、この事故と同種の事故は起こっていません。
詳しくはwikiの当該記事をどうぞ。
この事故は1985年の日本航空123便墜落事故までは世界最悪の被害者数を出した事故で、全日空にとって忘れてはいけない悲劇でした。しかしこの事故を全日空では常に振り返っているようです。2017年のANAの入社式ではこの悲劇に触れて、空の安全を保つことを訴えていました。
ANA入社式、社長挨拶で航空機事故の話をする訳–全2,799人に一番伝えたい事
ANAグループは4月1日、ANA羽田空港 機体メンテナンスセンター格納庫にて2017年新入社員のグループ合同入社式を実施した。今年は過去最高となるグループ36社2,799人(男性717人、女性2,082人)が入社。ANAホールディングス代表取締役社長の片野坂真哉氏は、社長就任3年目となる2017年度においても、第一に「安全が全て」であることを社長挨拶で述べ、ANAグループに集った”新しい力”を激励した。
中略
「今年は、過去に全日空機と自衛隊機が衝突墜落した雫石事故から46年目、松山沖事故、羽田沖墜落事故から51年目の年です。いずれもお客さまと乗員全員の尊い命が犠牲になりました。雫石事故以来、幸いにもこうした大きな事故を起こさずに今日に至っています。
お客さまの命が無事であればいい、というもとでは決してありません。高知空港でのボンバルディア機の胴体着陸から10年になります。冷静に着陸を果たし、お客さまにけが人がひとりも出なかったことは、不幸中の幸いでした。私たちは、当該便に乗り合わせたお客さまに、大変な恐怖、ご心配、ご迷惑をおかけしました。ご家族はもとより、いつも航空機をご利用いただいてきた地元のみなさまのみならず、全国のお客さまにご心配とご迷惑をおかけしました」
後略
毎ナビニュース: 2017/04/01 15:29:00 (松永早弥香氏)
ANA入社式、社長挨拶で航空機事故の話をする訳--全2,799人に一番伝えたい事ANAグループは4月1日、ANA羽田空港 機体メンテナンスセンター格納庫にて2017年新入社員のグループ合同入社式を実施した。今年は過去最高となるグループ36社2,799人が入社。片野坂真哉氏は社長就任3年目となる2017年度においても、第一に「安全が全て」で...
あってはならない事故を引き起こした責任は、航空会社には永遠に付いて回ります。入社式でその事故にあえて触れて思い出すというこの姿勢を続ける限り、全日空の空の安全への思いを信頼しても良いと感じました。
最後にひとこと
私は8月12日を「山の日」と「飛行機の安全の日」にして欲しかった。しかしながら、大勢の人が亡くなった8月12日を「山の日」という祝日にするのはいかがなものかと、特に意味もなく8月11日にされました。でも、日付には本来意味があるべきですし「国民の祝日」にすることには大きな意味がある。
日航機は御巣鷹山に墜落しました。「山の日」に御巣鷹山の悲劇も思い出し、祈り、そして飛行機の安全も祈る。それが亡くなった人々を供養することにもなるのではと思うのです。