外国産の食料品や加工品が多く輸入されるようになり、原産地を確認したい、国産を選んで購入したいという消費者の要望などが増えたため、消費者庁は全ての加工食品の「原料原産地表示」に義務を課す新しい制度を9月1日からスタートさせました。しかしその内容は手放しに喜べない抜け穴のあるものでした。新制度の詳細とその問題点、加工品を購入する際のポイントを考えます。
全加工食品に原料原産地表示開始
まずはニュースソースをどうぞ。
全加工食品に原産地表示開始
消費者庁は、国内で製造される全ての加工食品について原料原産地表示を義務付けるよう食品表示基準を改正し、1日から新制度をスタートさせる。国産農産物の消費拡大などが目的。最も重い原材料の産地1つを記すのが基本となる。
ロースハムは豚ロース肉が最も重量を占めるため、「豚ロース肉(米国)」などと表示。気候や相場変動などで原料の調達地や重量の順位が変わる食品もあるため、「米国または国産」としたり、産地が3カ国以上の場合は「輸入」としたりする例外も認めている。
加工食品自体を原材料として使う場合は、加工した国を表示。例えば、中国から輸入したあずきを北海道であんに加工、これを使ったあんパンのあんは「北海道製造」や「国内製造」と表示する。
新ルールは、4年以上の移行期間を経て平成34年4月に完全施行される。
産經新聞:2017.9.1 09:05
全加工食品に原産地表示開始消費者庁は、国内で製造される全ての加工食品について原料原産地表示を義務付けるよう食品表示基準を改正し、1日から新制度をスタートさせる。国産農産物の消費拡大な…
一度に全ての表示を切り替えることは無理なので、今から4年の年月をかけて完全施行に切り替わります。
完全把握は不可能な原料原産地
「原産地表示」が義務化されたと言っても単純に喜べません。というのも、以前の記事でも触れましたが「完全に」原産地を把握する事は実質不可能だからです。どういう場合が相当するか簡単な事例を挙げます。
- 表示欄が小さ過ぎてすべてを記載出来ない場合
- 商品に付けるラベルサイズにも限界があり、多くの原材料を使っている場合に全てを記載することは無理があります。
- 野菜など畜産などの原料調達国がころころ変わる場合や複数ある場合
- 農産物畜産物は天候や社会情勢などに左右されるものです。常に同じ国からとはいきません。
- 原料調達先の国に原料原産地表示義務がないためそもそも不明な場合
- 韓国では原産地表示はほぼ義務ですが、それ以外のほとんどの諸外国では特定の物以外に義務はありません。
- 外国で作られた加工品を原材料とする場合
- 輸入先の国がどこの国の原材料で作った加工品なのかは基本的に日本で確認できません。
- 日本国内でも偽装した材料かもしれない場合
- 鳴門わかめの懲りない偽装を思うと日本国産でも絶対的に信用できません。
より詳しく理解したい、知りたい方は、詳しく触れている記事があるのでお読み下さい。
実現が難しすぎる加工食品の原産地表示義務/食品流通の根本的改革が必要か
新制度の詳細
新しい制度について消費者庁で消費者向けのパンフレットが公開されていました。判りやすいパンフレットなのでどうぞご覧下さい。
ただし、新しい制度には「突っ込みどころ」が満載です。詳細に触れながらその問題点を挙げて行きます。
義務は一番多い原材料だけ
今までは一部の加工品のみに課されていた原料原産地表示義務が全ての加工品に拡大されました。
しかしよく見て下さい。義務になったのは「一番多い原材料」についてだけです。「全ての加工品」にだけ赤いアンダーラインを引いている所に少し悪意を感じます。
ちなみに消費者庁は2番以下の原材料については「表記が望ましい」としています。これでは「全ての加工品の原材料表記義務化」とは言えないでしょう。
従来の表示ルール加えて新しい表示方法が追加
従来の表示ルールは「国別重量表記」のみでしたが、今回新たに3つの表示方法も加わりました。
「国別重量表記」
従来からある表示の原則ルールが「国別重量表記」です。
ご覧の通り、「国別重量表記」とは、加工品の材料となるものが複数の国の材料を使っている場合は一番重い順から並んで表記されています。
「その他表示」
それでは、新しく加わった表示を消費者庁の出している事例を元に見ていきましょう。
豚肉が材料のウインナーの材料で一番多いのは豚肉で、その原産国が記載されています。その表記は国の数、重量によって並び順や表記が変わります。1カ国の時、2カ国の時はご覧の通り明確です。
問題は3カ国以上の場合です。ご覧の通り、全ての国の表記が出来れば良いのですが、「その他」表記が出来るのです。
このルールに則った場合、三つ以上の原産国で「中国産」や「韓国産」の原材料を使っていても「その他」と表記されるだけです。なんだこれはとしか思えません。
「製造地表示」
全ての加工食品が生鮮食品を原材料にしているものばかりではありません。原材料が加工品である場合、その製造地が記載されることになります。それが「製造地表示」です。
例としてチョコレートが挙げられています。
原材料に「ベルギー製造」と記載されています。しかし「ベルギー」で作られただけで、原材料はどこのものかは不明です。メーカーがベルギーに問い合わせれば教えてくれるかもしれませんが、義務でない国では情報公開を拒否される可能性もあります。その場合、結局どこの原材料かは判りません。
「又は表示」
加工品が原材料の場合は、その原産国やその量の比率によって「又は」を使った表示が出来ます。
表示は多い物から順の表記になります。ただしその量が5%以下の場合は記す必要があります。こういうチェックだけは厳しいのですね。
「大括り表示」
複数の輸入された加工品を原料にしている場合は「輸入」の記載のみでも良い事になっています。
この表示では「中国産」「韓国産」だけを避けたい人達が買えません。いくらなんでも「大括りすぎ」の印象です。しかし「輸入表示」の場合は「日本産」は全く含まれていないことが明確です。
加工品を選ぶときの3つのポイント
どうしても「中国産」「韓国産」を避けたいと思っている方は、選んで買うしかありません。そのポイントを挙げておきます。
ポイント1 原産国が三つ以上の不確定要素があるものは選ばない
ポイント2 原産地表示が無く、製造国表記しかないものは選ばない
ポイント3 輸入とあるものは選ばない
最低限この3つを守れば、「中国産」「韓国産」の材料が入った加工品をほぼ避けられるでしょう。ただし、それは比較的単純な材料で作られている加工品のみの話です。
先述した通り、外国の加工品を輸入して原材料として使う場合、その原材料の原産地を知り得る事は難しいのが現状です。それ故に、ある程度の諦めは必要かもしれません。
どうしても諦められない方は、現実的ではありませんが、国産の材料をかき集め、全て自分で作って食べるという選択肢しかありません。
最後にひとこと
「加工品の原料原産地の表示義務」は良いことだと思います。しかし「その他」や「国内製造」などのうやむやな表示が容認されているのでその価値が損なわれています。せめてQRコードで全ての情報を把握できるルールを追加するなり、お店で原産地情報を確認できる端末を用意するなどの工夫が欲しいところです。
商品管理は在庫管理にも繋がります。廃棄ロスも抑えられるでしょう。国は流通における抜本的なシステム構築をして、食料をもっと大切にできる土台づくりに励んで欲しいです。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。